40代の後半から50代によくみられる突然の発汗やほてり、動悸。気温や行動などに関係なく突然起こり、困ってしまう人も多いでしょう。これらはホットフラッシュと呼ばれ、更年期障害に見られる症状です。
この記事ではホットフラッシュについて、原因や対策方法、予防方法を紹介しています。治療を受けようか悩んでいる人は、治療を受ける目安や治療方法、リスクなども解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
ホットフラッシュとは
ホットフラッシュは更年期障害に見られる症状のひとつで、突然の発汗やほてり、動悸などがあらわれます。更年期障害は閉経の前後10年程の間に見られる症候群で、いつ起こるのか、症状の度合いなど個人差がとても大きいです。
ホットフラッシュは更年期障害の症状を訴える人の4割~8割に見られ、うち1割は医学的な治療を必要とする重篤な状態と言われています。症状があらわれると日常生活に支障をきたすこともあり、ホットフラッシュに悩む人は少なくないでしょう。
更年期障害の有無に関わらず、卵巣を摘出する手術をした人や病気の治療でホルモン剤を服用している人、放射線治療を受けている人、産後すぐの経産婦などにもホットフラッシュの症状がみられるケースもあります。
ホットフラッシュの主な症状
ホットフラッシュの主な症状には以下のものがあります。
- 気温や室温に関係無く急に汗がでる
- 気温に室温に関係無く急に体や顔がほてる
- 汗をかいたりほってったりしているのに手足が冷える
- 突然激しい動悸がする
- 就寝中大量に汗をかく
症状は主に2~4分程度続き、次第に収まります。また、発汗やほてりは、顔から始まり頭部、胸部と順に症状が出るのが特徴です。
ホットフラッシュが起こる理由
ホットフラッシュは自律神経の乱れにより起こる症状です。
自律神経は、生命を維持するために体温や呼吸、血流、内臓の動きなどを調整する機能を持っています。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、2つのバランスが取れていることで正常に生命維持の役割を果たしているものです。
2つの自律神経の内、さまざまな要因で交感神経が優位になり過ぎることでバランスが崩れ、体温調節や血流の調整が上手くできずホットフラッシュの症状が現れます。
ホットフラッシュを引き起こす原因
ホットフラッシュを引き起こす自律神経の乱れを起こす原因として、以下のものが考えられます。
ホルモンバランスの乱れ
ホルモンバランスが乱れると、ホルモンの分泌を指示する脳の視床下部が影響を受け、同じく視床下部で司られる自律神経も影響を受けます。
特に、更年期障害と併発して起こる理由は、ホルモンバランスの乱れが原因と言えるでしょう。
閉経が近くなると、卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)が減退します。徐々に女性ホルモンの分泌量が減ることで、無排卵になっていき生理が起こらなくなるのです。
しかし、女性ホルモンを分泌するよう指令を出している脳の視床下部では、通常通りの指令を送り続けます。やがて視床下部からの指示量と、卵巣から実際に分泌される女性ホルモンの分泌量が一致せず、全身のホルモンバランスが崩れ自律神経が乱れやすい状態に陥ってしまうのです。
ストレス
ストレスを感じると、脳の視床下部でストレスに対抗するためのホルモン(アドレナリンやコルチゾールなど)を分泌します。これらのホルモンは、卵巣から分泌される女性ホルモンを阻害する作用があるため、全身のホルモンバランスが乱れやすくなってしまうのです。
ストレスを原因としてホルモンバランスが乱れ、上記の「ホルモンバランスが乱れ」の項目でご紹介したように自律神経の乱れが誘発されてしまいます。
睡眠不足
自律神経は交感神経と副交感神経の2種類があり、それぞれがバランスよく作用することで体内のさまざまな器官を調節しています。しかし、睡眠不足になると交感神経が優位に働きやすくなり、自律神経のバランスが乱れてしまうのです。
また、睡眠不足の翌日はストレスを感じた際に分泌されるホルモン(コルチゾール)の量が増加するとも言われています。睡眠不足は、ホルモンバランス、自律神経共に乱れてしまい、ホットフラッシュをより引き起こしやすくなる要因のひとつです。
運動不足
適度な運動には、ストレス発散、ホルモン分泌の促進、睡眠の質の向上などさまざまな効果があります。反対に、運動不足に陥ることで、ストレスが発散できず、ホルモンバランスが崩れ、睡眠不足の原因となってしまうこともあるでしょう。これらの要因により、自律神経が乱れやすくなります。
ホットフラッシュの対処方法3つ
ホットフラッシュが突然起きると、人目が気になったり激しい動悸で苦しくなったりしてしまう人も多いでしょう。
ホットフラッシュが起こった際には、以下のような対処方法がおすすめです。
その1.腹式呼吸をする
ホットフラッシュは交感神経が優位になり過ぎることで、体温の上昇や血管の収縮・血圧の上昇などさまざまな症状が現れます。そこで、ホットフラッシュが起きてしまった時には、交感神経とは反対の働きをする副交感神経を優位にする効果のある腹式呼吸がおすすめです。
腹式呼吸は主に就寝中に無意識下で行われる呼吸方法で、血圧を下げたりリラックスしたりする際の副交感神経を優位にする呼吸方法です。
- 楽な姿勢で座る
- みぞおちの辺りに手を当てる
- ゆっくりと鼻から息を吸い、みぞおちの辺りが膨らむよう意識する
- ゆっくりと鼻から息を吐き、みぞおちのあたりが凹んでいることを意識する
普段行わない呼吸方法なので、最初はやや難しく感じるかもしれません。しかし、「ホットフラッシュが起こりそうだな」と感じた段階で腹式呼吸ができれば、ホットフラッシュの回避効果も期待できるでしょう。ホットフラッシュが起きてしまった時も、副交感神経を優位にして早く症状を治めることができます。
その2.アロマを活用する
ホットフラッシュの症状を抑えるには、副交感神経を優位にする効果が期待できるアロマを活用するのもおすすめです。嗅覚の情報は脳に送られた後、自律神経を司る視床下部で処理されます。そのため、副交感神経を優位にするアロマの香りを嗅ぐことで、スピーディに効果が現れることも期待できるでしょう。
- ラベンダー
- イランイラン
- ベルガモット
- レモンバーム
- ペパーミント
- ローズマリー
アロマというと火や電気など、キャンドルやディフューザーで楽しむイメージがありますが、精油を持ち歩きハンカチなどに垂らして香る方法もあります。その他、お湯を入れたコップに精油を垂らしたり、少量の精油を垂らすだけで香りを広げてくれるアロマストーンを使う方法もおすすめです。突然起こるホットフラッシュに対応できる方法でアロマを活用してみましょう。
ツボを刺激する
ホットフラッシュが起こった際の対処として、副交感神経の働きを優位にするツボを押す方法もおすすめです。
- 強い力で押さず、ゆっくりと圧をかけていく
- 気持ち良さを感じる程度の力で押す
- 強めに刺激したい場合は、円を描くように周囲がじっくりと圧をかけていく
- 日常的にツボ押しをする
ツボの押し方と、ツボの位置を覚えおき、ホットフラッシュが起きた時に対処してみてください。
ホットフラッシュに効果が期待できる手のツボ
ホットフラッシュに効果が期待できる手のツボには以下のものがあります
- 中渚(ちゅうしょ)…手を軽く握った際、小指と薬指に繋がる甲の骨の間
- 神門(しんもん)…手のひら側の手首。手首のシワ辺りの小指側にあるくぼみ
- 合谷(こうごく)…手の甲側。人差し指と親指の骨が交差する辺りのくぼみ
ホットフラッシュに効果が期待できる足のツボ
ホットフラッシュに効果が期待できる足のツボには以下のものがあります。
- 太渓(たいけい)…内くるぶしとアキレス腱の間のくぼみ
- 太白(たいはく)…足の親指を内側に曲げた際にできる2本のしわの後ろ側辺り
- 三陰交(さんいんこう)…内くるぶしから指4本分ほど上辺りのくぼみ
ホットフラッシュの予防方法4つ
日頃の生活習慣や食事内容などに気を付けることで、自律神経を整えることもホットフラッシュの予防策として効果的です。日々の生活の中で以下のことに気を付けてみてください。
1.有酸素運動の筋力トレーニングを行う
ウォーキングや水泳、ジョギングなど長時間にわたりじっくりと行う運動を有酸素運動と言います。有酸素運動は副交感神経を優位にする働きがあるため、日頃から筋力トレーニングとして取り入れることでホットフラッシュ予防に効果が期待できるでしょう。
また、運動することで脳からはセロトニンという、ストレスを軽減させるホルモンが分泌されます。ストレスが引き金となってホットフラッシュが起こる人に特におすすめです。
海外では、激しい負荷のかかる無酸素運動(激しい筋力トレーニングや短距離走など)を行うことで、自律神経の乱れに効果があるという研究結果もあります。しかし、激しい運動は交感神経を刺激する点でホットフラッシュの引き金となる恐れもあるでしょう。
スポーツジムなどで専門知識を持つトレーナーの指示を仰げる人は、正しい無酸素運動を。それが難しい人は、日常的にのんびりと行える有酸素運動を取り入れてみてはいかがでしょうか。
2.カフェインの摂取を控える
カフェインには交感神経を優位にする働きがあります。ホットフラッシュを予防するためにも、摂取を控えてみてください。
- 玉露
- コーヒー
- 紅茶
- エナジー飲料
- 高濃度カカオのチョコレート
カフェインは特に飲み物に多く含まれています。コーヒーなどを控えるのが難しい場合には、カフェインレスの製品などに変えるのがおすすめです。
3.予防効果が期待できる食べ物・飲み物を摂取する
ホットフラッシュの予防には、以下の食べ物や飲み物を積極的に摂取してみてください。
食べ物
ホットフラッシュをはじめとする更年期障害には、大豆製品の摂取がおすすめです。大豆には女性ホルモンに似た働きをもつイソフラボンが多く含まれています。
- 納豆
- 豆乳
- 豆腐
- みそ
イソフラボンの摂取目安は1日あたり70〜75mg。納豆1パックで65mg、無調整豆乳200mlで55mgのイソフラボンが摂取できます。過剰に摂取しすぎると、反対にホルモンバランスが乱れる原因となってしまうため、摂取目安量を守って食生活に取り入れてみてください。
飲み物
ホットフラッシュの予防効果を期待するなら、ハーブティーを飲んでみてはいかがでしょうか。ハーブティーはカフェインレスで、種類によっては副交感神経を優位にする働きが期待できるものもあります。
- カモミールティー
- セントジョンズワートティー
- オレンジピールティー
ただし、ハーブティーには副作用の注意喚起があるものも存在します。例えば、オレンジピールティーは偏頭痛、関節炎の症状がある人や妊婦は避けた方がよいといわれており、セントジョンズワートティーは薬との飲み合わせに注意が必要です。事前によく確認しましょう。
4.サプリメント
ホットフラッシュの予防に効果が期待できるイソフラボンは、サプリメントなどでも補うことができます。サプリメントは用法用量を守り、健康的な食生活の中で活用することが大切です。
ホットフラッシュで病院を受診する目安
日本では昔から、更年期障害は自然治癒するものだと考えられており、多くの女性が治療を受けることなく乗り越えてきました。しかし、それは過去の医学やライフスタイルから選ばれた結果であり、現代の女性には適さないと言えるでしょう。
ホットフラッシュをはじめとする更年期障害の平均発症年齢は45~55歳。現代では、まだまだ活発に仕事をしている年代と言えます。晩婚化や出産年齢の高齢化が進む中で子育て中の方もいることでしょう。慌ただしい毎日を過ごす中で、ホットフラッシュを心配しながら過ごすのは身体的にも精神的にも辛いことです。
いまやホットフラッシュをはじめとする更年期障害にはさまざまな治療方法も確立されており、ライフスタイルに合わせた方法を相談できます。毎日を快適に過ごすためにも、ホットフラッシュに悩んでいるなら病院で医師に相談してみてはいかがでしょうか。
ホットフラッシュの治療方法
ホットフラッシュの治療には、ホルモン剤や漢方を用いるケースが多いです。それぞれの特徴についてみていきましょう。
ホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法では、女性ホルモン(主にエストロゲン)を薬剤によって補填することで、ホルモンバランスを整えます。患者の状態や治療方針によっては、プロゲステロンという女性ホルモンを併用して処方されるケースもあるでしょう。飲み薬や貼り薬、ジェルタイプなど、さまざまな服用方法があり、ホットフラッシュをはじめとする更年期障害の改善効果が多いに期待できる治療方法です。
漢方
漢方にもホットフラッシュをはじめとする更年期障害の改善効果が期待できるものがあります。病院によって取り扱っていないこともあるため、漢方での治療を希望する際は事前に問い合わせしておくとよいでしょう。中には、ホルモン補充療法と漢方を併用して治療するケースもあります。
ホットフラッシュ治療におけるホルモン補充療法のリスク
ホットフラッシュをはじめとする更年期障害の治療でホルモン補充療法を検討している人の中には、副作用などのリスクを心配するケースも多くみられます。
実際に、5年間ホルモン補充療法を継続すると乳がんや子宮体がんの発症リスクが1.3倍程高くなるというデータもあります。また、肝臓が悪い人や血栓ができやすい人、ホルモンが起因しているがん患者などの場合、ホルモン補充療法を用いることで重大なリスクに晒される恐れもあるでしょう。
病院では、これらのリスクに対応すべく事前検査や定期健診などを行い、できる限り安全に治療が受けられるよう治療方針を検討します。今現在、リスクを考えてホットフラッシュの治療を躊躇している人がいるなら、まずは医師に不安な点を話してみてはいかがでしょうか。
まとめ
更年期の女性を悩ませるホットフラッシュについて紹介してきました。自律神経の乱れによって起こるホットフラッシュは、当事者にしか分からない辛さがあります。「そのうち治るから」と思っていても、人生の中の10年間はとても長いです。
体や心の辛さを我慢して過ごすのではなく、アクティブに充実した日々を過ごすためにも、まずはホットフラッシュの症状について医師に相談してみてください。
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