閉経が近づいてくると、今まで月経周期の安定していた方でも、周期や出血量などに変化が出てくるのは、自然な流れです。そうはいっても、誰にとっても初めてのことであり、戸惑ってしまう方、病気かもしれないと不安になってしまう方も少なくありません。
月経には個人差もあるため、なかなか「正常な状態」の判断は難しいものです。今回は、更年期に訪れる一般的な月経の変化についてご紹介します。月経がどのように変化していくか知っておくと、心構えができると思いますので、参考にしてみてください。
更年期に生理が不安定になる理由
更年期に月経が不安定になるのは、自然なことです。まずはその理由を解説します。
ホルモンと月経が起こるしくみ
脳からの指令に基づき、卵巣が卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)を規則正しい波のように分泌することで、子宮内膜が厚くなり、妊娠が成立しなければ厚くなった内膜が剥がれ落ちる、これが月経です。
もう少し詳しく解説すると、エストロゲンは、月経周期の前半で分泌され、排卵前の卵胞が育つまで子宮内膜を徐々に厚くする役割のホルモンです。その後、卵胞が育つと脳から卵巣に指令が出て排卵が起こり、プロゲステロンの分泌が増えていきます。プロゲステロンは、子宮内膜が剥がれないように安定化させて妊娠しやすい環境を整える役割のホルモンです。妊娠が成立しなければ2つのホルモンの分泌が減少し子宮内膜が剥がれ落ちて月経が起こるということになります。
更年期に訪れるホルモンの変化
更年期は、閉経前後5年ずつの約10年間を指します。日本人女性の平均的な閉経年齢は約50歳なので、個人差はありますが一般的には45歳〜55歳頃が更年期となります。
更年期における月経の不安定化は、主に卵巣機能の低下に起因します。卵巣は、いつまでも一定の機能を発揮できるわけではありません。40代前半ごろから徐々に機能の低下が始まり、更年期にさしかかると、実際に女性ホルモンの分泌量が減ってきます。
分泌量が減ると、脳は「もっとホルモンを分泌するように」と指令を強めます。ところが、卵巣がうまく反応できなかったり、また、時には強い指令に反応して分泌しすぎてしまったりと、ホルモン分泌量に大きな波が出てしまうようになり、それが月経に影響を及ぼして月経不順が起こります。
卵巣から分泌されるホルモンは閉経に向かうにつれて徐々に低下していき、最終的に低い分泌量で安定します。
更年期に起こりがちな4つの生理の変化
更年期に入ると、それまで月経周期が規則的だった方でも、大きく変動するようになります。一般的には、次のような流れで変化が起こることがあります。個人差があるため、必ずしも全てに当てはまるように変化するわけではありませんが、月経の変化が起きたときには参考にしてみてください。
①月経周期が短くなる
通常、月経周期は28日前後ですが、1か月に2回の月経が生じるなど、まずは月経周期が短くなる「頻発月経」となることも多いです。また、月経周期がバラバラになり、開始日の予測が難しくなってきます。
②出血量が安定しない
月経の出血量は、その月々でばらつきが出てくるようになります。
脳からの司令に応えようと、エストロゲンの分泌量が急激に上昇したり、逆に大きく低下したりと、エストロゲンの分泌量が安定しなくなることが、出血量がばらつく要因となります。エストロゲンの過剰分泌によって子宮内膜が必要以上に厚くなると、不正出血を引き起こしたり、経血量が増えたりすることにつながります。
出血量にばらつきが出てくるようになった場合、無排卵月経が混じっていることも考えられます。卵子自体が少なくなってくることも要因です。
排卵が起こらない場合、その後にプロゲステロンがほとんど分泌されないため、エストロゲンの分泌だけが続き、子宮内膜が増殖し続けることがあります。この状態が続くと、子宮内膜が過剰に厚くなり、不規則な出血や大量出血を引き起こす可能性があります。
無排卵月経かどうかは、症状からご自身で判断することはできません。
③出血がダラダラと続く
また、エストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れることで、子宮内膜の剥離も通常とは異なってきます。通常であれば、子宮内膜は一度にまとまって剥離しますが、少しずつ不完全に剥離することで、月経の出血が長引くのです。
通常の月経期間は5-7日ですが、それ以上の期間にわたって出血が続く状態が見られることもあります。10日以上出血が続くこともあり、経血量は少なめながらもなかなか止まらない、血の混じったおりものが続くなど、パターンはさまざまです。
少量の不正出血がダラダラと続き、「出血のない日が少ない」という方もいます。月経なのか不正出血なのか、区別が難しい場合も多くなります。
④月経周期が長くなる
2〜3か月に1度など、月経周期が長くなり、稀発月経、無月経の状態を経て、そのまま閉経へと向かいます。閉経は、「今この瞬間に閉経した」ということはわかりません。1年間月経が来ていなければ、あとで振り返って最後の月経時を閉経と考えます。
更年期前後で気をつけたい疾患
更年期前後の方は、何か不調があっても「更年期のせいだろう」と判断してしまいがちです。ですが、不正出血や月経周期の変化が起きた場合、更年期以外の要因がないかどうかは、検査しておくことをおすすめします。
子宮がん
子宮がんには子宮頸がんと子宮体がんの二種類があります。
子宮頸がん
子宮頸がんは比較的若い世代(20代~30代)での発症が多く、頸がんのほとんどはヒトパピローマウィルスの感染が原因となっています。
性交後の出血などが起こることもありますが症状がないことも多いです。定期的な婦人科検診によって早期発見が可能ながんと言えます。
子宮体がん
子宮体がんは、20代~30代での発症は少なく、40代から徐々に増えてきます。50代・60代が発症のピークであり、更年期や、閉経後に注意したいがんです。特に、妊娠や出産経験のない方、月経不順のある方、肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病のある方、ホルモン治療の経験がある方などはリスクが高まるとされています。初期症状である不正出血がみられる場合は早めに受診することで早期に発見することができます。閉経後に性器から出血した場合は、必ず受診して検査を受けることをお勧めします。
子宮頸管ポリープ
子宮頸管ポリープは、子宮の入り口(頸部や腟部)に生じるポリープで、基本的には良性の腫瘤です。多くは子宮膣部の炎症によって生じることが多いです。
子宮がん検診時に偶然見つかることが多いですが、性交時の出血や不正出血などを生じることもあります。出血の原因になっている場合や大きさによっては切除して病理検査で悪性所見がないかどうかを確認します。
子宮内膜ポリープ
子宮内膜ポリープは子宮の奥(体部)に生じるポリープです。不正出血や月経期間が長い場合に超音波検査で見つかることがあります。
悪性を疑う場合は細胞や組織の検査で悪性ではないことを確認します。
症状がある子宮内膜ポリープは子宮鏡手術による切除術をお勧めすることもあります。
子宮筋腫や子宮腺筋症
月経量が多い、月経痛が強いなどの症状がある場合や、健診で貧血を指摘された場合などで婦人科を受診した際に超音波検査で病変が見つかることがあります。
症状が強い場合はホルモン療法や手術が必要となることもあります。
甲状腺疾患
甲状腺機能の異常は月経不順の原因となることがあります。甲状腺疾患をお持ちの方は日本に500万人ほどいると考えられており、これは糖尿病や脂質異常症(高コレステロール血症)の方と同程度の患者数です。20〜40代の女性の発症が多く更年期世代とも重なります。
甲状腺機能亢進症の場合は、急な体重減少、動悸、汗をかくといった症状も特徴的です。
甲状腺機能低下症の場合は、倦怠感、体重増加、気分の落ち込みといった症状を伴うこともあります。更年期症状と似ているので月経不順と上記症状がある場合は甲状腺機能の異常がないか血液検査で確認することをお勧めします。
まとめ
今回は、更年期のホルモンの変化に伴う月経異常や、更年期に注意したい病気についてまとめました。更年期に月経周期の不安定化・不正出血の増加が起こるのは、自然な変化です。とはいえ、他の病気の可能性は排除しておく必要があります。
定期的な婦人科検診を受けることは大切です。また不正出血が長く続くような場合は一度婦人科を受診し相談することをお勧めします。
\ 人形町駅徒歩3分。月~土祝19時、日曜17時まで診療 /