多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome 以下PCOS)を知っていますか。聞いたことがないという人も多いかもしれませんがPCOSは月経不順の原因になる病態です。
月経不順で婦人科を受診した時に、PCOSであることがわかったという人も多いでしょう。
この記事では、PCOSがどのような病態なのか、症状や検査、治療法などについて解説します。
月経不順で気になっている方や、PCOSと婦人科で指摘されたことがあるという方は参考にしてください。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、月経異常や不妊症などの原因となる病態です。
通常、排卵は卵巣内のひとつの卵胞が大きくなって起こります。PCOSとなった卵巣内には小さな卵胞がたくさんあり、ひとつの卵胞が大きくなれずに排卵がうまくいかなくなることで排卵障害が起こります。排卵がうまくいかないと月経周期が乱れたり無月経になったり、不妊症の原因になることがあります。また男性ホルモンの値が高くなることで多毛やニキビなどを認めることもあります。
妊娠が可能な年齢の女性の約5-10%に認められ、排卵障害が起こることで不妊の原因の約40%を占めるとも言われており比較的頻度の高い病態です。
原因は何?
PCOSの原因は、はっきりとわかっていませんが、排卵に関わるホルモンの異常などがベースにあるとされています。脳の下垂体から分泌される卵巣を刺激するホルモンの異常や糖の代謝に関わるホルモンと関係があります。血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌が高まることにより男性ホルモンの分泌が増加することも病態に関与しており、欧米では肥満や糖尿病の方にPCOSの頻度が高いとされています。日本人女性では必ずしも肥満、糖尿病の方が多いとは言えず、遺伝的な要因や環境因子も関与するといわれております。
症状はある?
PCOSの症状はどのようなものがあるのでしょうか。
PCOSの自覚できる症状としては、
- 月経異常(月経不順や無月経)
- 男性ホルモン分泌過剰に伴う多毛やニキビ
などです。 排卵障害による月経異常があると不妊症の原因にもなります。
どのような検査で分かる?
PCOSは月経異常症状と超音波検査、血液検査の結果で判断します。
日本産婦人科学会・生殖内分泌委員会では、以下の3つの診断基準を満たすとPCOSと診断できるとしています。
- 月経周期異常
- 超音波検査(エコー検査)での多嚢胞性卵巣、またはAMH高値
- 血液検査での男性ホルモン高値またはLH(黄体形成ホルモン)高値
順番に解説します。
1.月経周期異常
正常な月経周期は25~38日とされています。
無月経(月経が3カ月以上ない場合)、頻発月経(周期が24日以内と短い場合)、稀発月経(周期が39日以上と長い場合)などの症状がある場合、月経周期異常と考えてよいでしょう。
2.超音波検査(エコー検査)
PCOSの場合、超音波で検査した際に、排卵できなかった10mm以下の卵胞がたくさん見えます。片側の卵巣に10個以上の小さい卵胞が見える場合を多嚢胞性卵巣としPCOSに特徴的なサインになります。
またAMH(抗ミューラー管ホルモン)の値が高値である場合もPCOSと診断することがあります。
AMHとは卵巣内にあるこれから発育する卵子の数を反映するとされており、年齢による基準値があります。PCOSの方は排卵がうまくできていないことも多く、残っている卵子の数が基準値よりかなり高くなっていることがあります。
3.血液検査
PCOSの方は脳の下垂体から出るホルモンであるLH(黄体形成ホルモン)が高値となることが多いです。同じく下垂体から分泌されて卵巣を刺激するFSH(卵巣刺激ホルモン)は正常であり、FSH値に比べLH値が高値となります。
また男性ホルモン値が高くなることもあります。
治療方法は?
BMI(Body Mass Index) という身長と体重から算出される肥満度を表す指数が25以上の肥満の場合は、生活習慣の改善から始めます。食事や運動など生活習慣の改善を開始し減量を試みます。
肥満のない方に対する薬物療法にはいくつか種類があり、妊娠を希望するかどうかで治療方針が異なります。
すぐに妊娠を希望されていない場合
無月経や稀発月経がある場合は、ホルモン剤で定期的に月経を起こす治療を選択します。
低用量ピル
妊娠を希望していない場合、低用量ピルの内服を選択することが多いでしょう。
卵胞ホルモン(エストロゲン製剤)と黄体ホルモン(プロゲステロン製剤)を低用量で投与することにより定期的な月経(消退出血)を起こす方法になります。
また、月経前症候群(PMS)や月経痛の症状を抑える働きもあります。
月経周期が整い定期的に月経が来るので月経不順のストレスからも解放されます。
ホルムストルム療法(黄体ホルモン投与)
排卵がうまくできないと排卵後に分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が十分足りておらず月経異常がおこります。この方法は黄体ホルモンの補充により定期的に月経を起こす方法となります。
カウフマン療法
本来卵巣から出るホルモンの分泌に合わせて卵胞ホルモン(エストロゲン製剤)と黄体ホルモン(プロゲステロン製剤)を投与することにより定期的な出血を起こす方法です。
無月経や卵巣機能不全の治療として選択されることも多いです。
そのほか月経異常の改善を期待して漢方を投与することもあります。
妊娠を希望される場合
妊娠を希望される場合は、排卵誘発剤やホルモン剤で排卵を促し、妊娠成立を目指します。
経口排卵誘発剤
経口排卵誘発剤(クロミフェンやレトロゾール)を使用します。
PCOSの場合、排卵ができていない場合が多いため、薬を使って卵胞の発育をコントロールします。卵胞の発育が確認できれば排卵を促しタイミングをとっていくようにします。
性腺刺激ホルモン剤(ゴナドトロピン療法)
経口排卵誘発剤で、効果があまりみられない場合に次の選択肢として使われるのが、注射剤である性腺刺激ホルモン剤です。PCOSの場合は卵巣過剰刺激症候群を起こすこともあるので慎重な投与と観察が必要です。卵巣過剰刺激症候群とは、排卵誘発剤で過剰に刺激されることによって卵巣がはれたりお腹や胸に水がたまるなどの症状が起こる病態で、血栓症や腎不全など重症化することもあり注意が必要です。
メトホルミン
メトホルミンは血糖値を下げる薬のため、PCOSの場合、糖代謝異常や肥満の方を対象にしています。通常排卵誘発剤と併用して投与します。
腹腔鏡下卵巣多孔術
卵巣の表面に電気メスで小さな穴をたくさん開ける手術です。手術後に自然に排卵するようになったり、排卵誘発剤に対する反応が改善したりする効果が期待できます。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のリスクや症状は?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)には様々なリスクがあります。
不妊症のリスク
これまでお伝えした通り、PCOSは排卵がうまくできていないため、月経不順になったり、無排卵月経になったります。
排卵がきちんとできていないと、自然妊娠しにくいため不妊のリスクがあります。
ただ、排卵を促す薬を併用することで、妊娠することはできますので、必要以上に心配する必要はないでしょう。
子宮体癌
次に、子宮体癌のリスクです。
月経時には子宮の内膜がはがれ落ちて体の外へ出血となり排出されます。月経が来ないと、子宮内膜は、はがれることなく子宮の中に留まります。
子宮内膜がはがれ落ちず、子宮の中に溜まり続けることで、子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクが高くなると言われています。最低3ヶ月に1回は月経を起こす方が良いでしょう。
PCOSで月経が規則的に来ない場合は、薬物療法で定期的に月経を起こす必要があります。
糖尿病
他にも糖尿病のリスクがあります。
PCOSの場合、約50~70%にインスリン抵抗性が認められるという報告があります。インスリン抵抗性とは、インスリンの働き(血糖値を下げる作用など)が十分に発揮されない状態です。
インスリンが十分に作用されないと、血糖値のコントロールが難しく不安定になりやすいため、将来糖尿病になるリスクが高いと言われています。
特にBMI25以上の肥満の場合、糖尿病になるリスクは高いため、食事習慣の改善や体重コントロールが大切です。
また家族に2型糖尿病の人がいる、妊娠糖尿病になったことがある、という方は、糖尿病のリスクが高いため、定期的に糖尿病の検査をすることが推奨されています。
生理不順の場合、一度産婦人科を受診しよう
生理不順を自覚していても、忙しかったり受診に抵抗があったりと、なかなか産婦人科を受診できていないという人もいるかもしれません。
PCOSは、放置していても、どんどん症状を悪化させるものではありませんし、根本的な治療方法はありません。
ただ、妊娠を考えた場合、早めに受診することで、原因を把握し、早期に必要な治療ができます。
普段の生活で月経不順以外にも困っていることがあれば、一度産婦人科を受診し、医師に相談しましょう。
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